斎藤幸平著 ヘーゲル『精神現象学』 2023年5月 (NHKテキスト)

私はヘーゲルが嫌いである。

ある日、三省堂池袋本店でこの斎藤幸平氏NHKテキストを見かけた。その時はお目当ての別の本を何冊か購入したのだが、帰宅後気になってアマゾンでポチっと購入してしまった。600円である。安い。しかも本当に読みやすいのと、面白いのとまたボリュームが短めなので、1時間くらいで一気に読み終えてしまった。

ヘーゲル『精神現象学』 2023年5月 (NHKテキスト) | 斎藤 幸平 |本 | 通販 | Amazon

ヘーゲル精神現象学は難解なことで知られる。また結構ボリュームがあるので、一般読者にはあまりありがたくない本だろう。私も大昔に中公クラシックスの法の哲学を通読したけれど、

法の哲学〈1〉 (中公クラシックス) | ヘーゲル, Hegel,Georg Wilhelm Friedrich, 渉, 藤野, 正敏, 赤沢 |本 | 通販 | Amazon

精神現象学は食わず嫌いで読まなかった。

斎藤幸平氏マルクスの専門家であり、斎藤氏による著書、人新世の「資本論」がベストセラーになっている。

人新世の「資本論」 (集英社新書) | 斎藤 幸平 |本 | 通販 | Amazon

マルクスを研究するにはマルクスに多大な影響を与えたヘーゲルを避けて通ることはできない、と斎藤氏は冒頭で書いている。が、マルクスの視点を持ち込みすぎると、「精神現象学」がみえにくくなってしまう、ため、この本ではヘーゲルヘーゲルとしてストレートに読んでいく、と氏は述べている。

本当に読みやすいので、精神現象学のさわり、だけを知りたい人、精神現象学をこれから読もうと思ってる人におすすめです。

 

精神現象学の精神(geist)とは、何か?それは一言でいうと「私たち」のことである(p45)。精神は学問、芸術、政治、宗教など社会的な共同作業を通じて、歴史上に現れてくる集合体を指す。人間に特有の社会的行為の総称といっていい。

その際、私たちは好き勝手に「何が美しいか」や「何が正しいか」を主張することができません。判断には他者にも共有する根拠が必要だからです。その根拠は歴史、社会、文化など、共に生活する他の人々と織りなす社会的空間と切り離すことができません。「私」の美や善をめぐる理解は、「私たち」(精神)によって規定されているのです(P46)。

ここはヘーゲルの核心を突いた箇所ではないだろうか。

自分の考え、があったとして、そこで完結せず、他者にも伝える。そして他者からの反応がある。他者とのコミュニケーションによって「精神」が新しい姿を見せるのだ。

さて、詳しいことは本書を手に取っていただくとして、私がいまさっき読み直してみて気になった個所をここにちょっとだけ書き留めておく。

  ・あるときは社会のルールに異議を唱え、法律でさえ「不当だ」「くだらん」といって無視したかと思えば、デモやストライキを行う人々に対して「あんな活動は法律違反だ」と批判する。これは「分裂した意識のことば」であり、「誠実なありかたにとって遠く離れ離れになっている」とヘーゲルは指摘します。(P62)

  ・あらゆる常識から距離を取るという意味で、ラモーの甥は教養と疎外の完成形にほかなりません。けれども、そのような自己は矛盾するものを「統合」することができず、矛盾を分裂状態に放置している、とヘーゲルはいいます。それでは新しい規範(「実態」)を把握することはできません。すべては空虚となり、そのような立場を擁護する自分だって空っぽの存在になってしまいあす(P65)

  ・啓蒙は一方的に相手を否定するばかりで、相手の立場に対する理解や、自分たちが間違っている可能性への自己反省を欠いています。ゆえに立場の違う信仰と協働できない。ここに啓蒙の限界があります。(P82)

  ・すべてを「物質」によって説明しようとする科学主義は、それ自体「信仰」です。こうして、啓蒙の真理は、自分が反対していたはずの「未成年状態」に逆戻りしてしまうのです。(P86)

  ・世界が安定的な宥和状態にいたることを期待するのは無理でしょう。近代社会はコンフリクト社会なのです。私たちは、とにかく他者とぶつかりまくって生きている。それでも、他者と共に生きていくためには何が必要か。それは「不和」に対する耐性と相互の信頼です。(p106)

 

私はヘーゲルが嫌いなのだが、本当にこの本は読みやすかった。

600円とお手頃だしおすすめです。

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※お詫び

私の持病の悪化と、PCの再三の故障により当ブログの更新を怠っていたのをお詫びします。いま、ガチガチに硬くなったキーボードでこの記事を書いております。

トッド氏の続きは延期とさせていただきます